ターミナル

人の情や心の繊細さを見事に描いた素晴らしい映画

2004年製作  アメリカ  129分

監督

スティーヴン・スピルバーグ

キャスト

トム・ハンクス  キャサリン・ゼタ=ジョーンズ      スタンリー・トゥッチ  ゾーイ・サルダナ  クマール・パラーナ  ディエゴ・ルナ  バリー・シャバカ・ヘンリー

撮影ロケーション・情景

ニューヨーク 空港  jazz・ナイトクラブ

ターミナルのあらすじ

無国籍者となってしまったクラコウジア人

ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港での入国審査で、要注意者として入国拒否をされ足止めを食う一人の男がいた。クラコウジア人のビクター・ナボルスキー(トム・ハンクス)である。彼の母国クラコウジアは、彼が空港を飛び立った直後に軍事クーデターが起こり、クラコウジア政府が事実上消滅してしまい、彼の持っているパスポート、ビザはすべて無効となってしまっていたからである。それによりビクターは事実上無国籍者となってしまい、クラコウジアの新たな政府が国交を結ぶまで、アメリカに入国する事も母国に引き返す事も出来ない状況に陥ってしまった。

ビクターは税関国境保護局主任のフランク・ディクソン (スタンリー・トゥッチ)に呼び出され、この問題が解決されるまで国際線のトランジェット用ラウンジで過ごすようディクソンに指示された。ビクターに手渡されたのは食堂で使えるクーポン券、そして15分使えるテレホンカードに保護局職員からの呼び出しの為のポケベルだった。この日からビクターは空港内での生活を始める事になる。

ターミナルから出る事の出来ないビクターは、バスローブでラウンジ内をうろついたり、トイレの洗面台を風呂代わりにするなど、なりふり構わずな生活を送っていた。ビクターを監視する保護局主任のディクソンは税関国境保護局の次期局長を狙う男で、もし空港内で問題が起きれば自分の出世に影響する事を懸念し、ビクターに敢えて警備体制の盲点を教え、彼が自ら逃亡を謀るよう嗾けた。しかし真っ正直なビクターは律儀にも空港内に留まる事を止めなかった。

腹をすかせ空腹に苦しむビクターは裏取引で機内食をゲット

最初に彼を苦しめたのは空腹である。保護局から貰ったわずかなクーポン券も底をついてしまった。ある日ビクターが腹をすかせフードコートに立ち尽くしていると、ひとりの女性が手荷物カートを返しに来た。その様子を見ていたビクターはカートを1台返却すると25セントが戻る事を知った。するとビクターはラウンジ内に散乱するあらゆるカートをかき集め、やっとの想いでハンバーガーを1つゲットした。

ある晩ビクターが改装中の建物内を歩いていると、タグ車に乗ったエンリケ・クルズ(ディエゴ・ルナ)が「話がある」とビクターに声をかけた。エンリケは入国審査官ドロレス・トーレス(ゾーイ・サルダナ)に恋心を抱いており、、彼女の情報をくれたら食事を提供するとビクターにもちかけた。ビクターは当初から入国できない理由を理解できていなかったため、何度もドロレスのもとに入国申請を出しに足を運んでいたからである。

ビクターは早速ドロレスのところに向い彼女からありとある情報を聞きだした。彼女の男性遍歴や元カレと別れた原因など、色々な情報を聞きだしエリンケに伝えた。ビクターはその見返りとしてエリンケからこっそり機内食を分け与えてもらう。

味をしめたビクターはさらに情報を聞き出そうとドロレスの所に足を運ぶが、執拗なビクターの行動に、誰の指示による“サグリ”なのか解明しようとビクターに詰め寄った。

しかし丁度そこでビクターのポケベルが突然鳴った。ビクターが急いでディクソンのいる保護局の事務所に行くと、なぜか豪華なハンバーガーがビクターのために用意されていた。しかし彼の空腹は満たされていたため食べなかった。ディクソンはビクターに「空港から出られるいい方法がある」と切り出した。祖国に戻る事を恐れる外国人は法で保護する事ができ、緊急国外退去措置の対象となって移民局裁判ができるので、その手続きをお膳立てしてやるというものだった。しかも裁判が終わるまでの間、ニューヨークへも自由に行き来できるという。しかし、あまりにも擁護を求める数が多いため、実際には法廷に呼び出されるまでに半年かかるというものだった。

そこでディクソンはビクターに「この質問に適切な回答する事ができれば今夜にでも空港から出られる」と前置きし、「母国に戻るのに恐怖心があるか?」という質問をした。ビクターがそれに「イエス」と答えれば緊急国外退去措置の対象となりビクターを空港から退去させることができるからだ。ビクターが空港から出ていきトラブルを回避できれば次期局長のイスを狙いやすいと考えたからである。しかしビクターは「ノー」と答えた。

ターミナルのレビュー・感想

この映画を絵面(えづら)で観てはいけない

物語のシチュエーションが全て空港内という設定のためか、この映画を絵面(えづら)で観ようとすると、たぶんつまらなくて寝てしまうかも知れません。

僕がこの映画を初めて観たのがニューヨークに向かう飛行機の中で、眠さのあまり映画に集中できず、面白いとは思わなかったというのが最初の印象でした。

しかしこの映画の監督は、あのスティーヴン・スピルバーグ様。伊達に映画を作っちゃいません。ちゃんと観れば、人の情や人間の心の繊細さを見事に描いている素晴らしい作品である事がよく解ります。以来、この映画は何度も観ました。

旅行にせよ、片言の英語のスキルしか持っていない状態で海外に行くと、自分の意図する事が全く通じず、嫌な思いをする事が多いですよね。だから英語なんてほとんど喋れないのに、それを隠そうとして虚勢を張ってしまうという経験が僕にもありましたけど、英語がまともに話せないとどうなるかという描写が上手く表現されていて「そうそう」と思わずうなずいてしまう場面が多々ありました。

ビクターが税関国境保護局の事務所で聴取されるシーンで、担当官がパスポートと航空券の提示を求めようと片手を差し出す場面で、ビクターが握手を求められたものと勘違いし、手を差し出してしまうシーンがあるのですが、英語を理解しているふりをして虚勢を張るとこういう事になるという、人の心を描くのがとても細かいですね。

冒頭この映画を「絵面」で観てはいけないと言ったのはそういう意味なんです。

あなたに降る夢

寛大な心をもつ警官と心優しきウェイトレスの心温まる恋愛ドラマ

1994年製作  アメリカ  101分

監督

アンドリュー・バーグマン

キャスト

ニコラス・ケイジ  ブリジット・フォンダ  ロージー・ペレス  ウェンデル・ピアース  スタンリー・トゥッチ  リチャード・ジェンキンス

撮影ロケーション・情景

ニューヨーク アメリカンポリス 宝くじ ホテル 破産

あなたに降る夢のあらすじ

宝くじのお告げ

ニューヨークで警官として働くチャーリー・ラング(ニコラス・ケイジ)はとても庶民的で人懐っこく困った人をみれば放っておけない正義感の強い人気者であった。ある日チャーリーが洗面台で髭をそっていると隣でシャワーを浴びる妻ミュリエル(ロージー・ペレス)から「明日宝くじを買ってきて」と頼まれる。ミュリエルは昨晩スロットマシーンでチェリーを3つ並べた夢を見て「これは宝くじが当たるお告げ」と信じ込んでいた。

チャーリーとイボンヌの出会い

翌日チャーリーは相棒のボー(ウェンデル・ピアース)と外回りをしている途中宝くじを買った。そして丁度昼時間であったため近くのレストランで昼食をとる事に。そこにはイボンヌ(ブリジット・フォンダ)がウェイトレスとして働いていた。イボンヌは元夫の金銭トラブルで破産宣告を受けていたが、そんな窮乏した状態でも客に優しく接し、一生懸命に働く美しい女性だった。チャーリーたちが注文を済ませコーヒーを飲んでいると急遽、緊急出動の無線が入った。

コーヒーしか口にしていないチャーリーはお勘定を済ませようとレジに向かうが、財布にお金が入ってなくチップを払えない状況にあった。それを聞いたイボンヌは「チップは結構よ」とチャーリーに言うがチャーリーは宝くじを買ったことを思い出し、宝くじが当たったら当選金の半分をチップとして渡し、当たらなくても明日チップを払いに来るとイボンヌに約束した。イボンヌは冗談半分に話を聞いていたがチャーリーは本気でそう思っていた。

奇跡の高額当選

その夜、テレビを観ていたミュリエルが突然大声をあげた。なんとチャーリーが買った宝くじが400万ドルという大金に当選したのである。大声で叫びながらミュリエルは喜んだがチャーリーは神妙な面持ちだった。イボンヌに当選金の半分を渡す約束を思い出したからである。

チャーリーはミュリエルにその事を打ち明けるとミュリエルは「200万のチップなんてありえない」と憤慨した。それでも生真面目なチャーリーは「約束したんだ」と当選金の半分200万ドルをイボンヌに渡すと言い張った。

翌日チャーリーは相棒のボーに約束を守るべきかチップだけを渡し当たらなかった事にするべきか相談した。するとボーは「君なら正しい事をする」と意味深な事を言い、それを聞いたチャーリーはイボンヌが働くレストランに向かった。イボンヌは「きのうはごめんなさい。人生最悪の日でイライラしていた」とチャーリーに詫びた。チャーリーはイボンヌから破産宣告を受けた話を聞くと、約束通り当選金の半分200万ドルを渡すとイボンヌに告げた。それを聞いたイボンヌは「からかわないで!」と最初不機嫌そうな顔をするが、それが事実だと知ると、喜びと驚きで有頂天になり店内にいるお客全員にアイスクリームを振る舞った。

ニューヨークで一躍時の人に

それから数日後マンハッタンで宝くじの当選授賞式が行われた。当選金の半分をウェイトレスに譲渡したことが話題になりそこにはイボンヌも招かれた。チャーリーはインタビューで見ず知らずの他人に200万ドルも譲渡した事を問われると「約束は約束です」と答え記者たちを驚かせた。この事が翌日の新聞のトップニュースとして取り上げられ、チャーリーとイボンヌは一躍ニューヨークで時の人となる。

億万長者の集い

一方、当選金額は半減したものの200万ドルという大金を手にしたミュリエルはブランド物を買い漁りチャーリーに相談もせず勝手にアパートをリフォームするなど浪費癖がエスカレートしていった。これが彼女の人生を次第に狂わせていく。

ある日チャーリーたちは宝くじミリオネアクラブが主宰する「億万長者の集い」に招かれる。華やかな豪華クルーズ船でのパーティーである。当然そこにはイボンヌも招かれていた。チャーリーはイボンヌが船つき場でタクシーの運転手と釣り銭の事で揉めているのを目撃する。チャーリーはイボンヌに「お釣りは結構です(金持ちだから)というんだ」といって笑った。そうこうしている内にクルーズ船が出港してしまい、船に乗り損ねたチャーリーとイボンヌは二人きりのディナーを楽しみ互いの身の上話しに花を咲かせた。

チャーリーとミュリエルの泥沼離婚劇

チャーリーを残し一人クルーズ船のパーティーで楽しむ妻ミュリエルは参加していた詐欺まがいの投資コンサルタント ジャック・グロス(シーモア・カッセル)に投資の手ほどきを受けていた。お金に欲をかくミュリエルはグロスにとって格好の餌であった。チャーリーとの生活より成金に走るミュリエルは当選金をイボンヌにくれたことに我慢できずチャーリーに離婚を迫る。

一方イボンヌは当選金の半分をもらったことを元夫に知られ金の無心をされる。チャーリーとイボンヌは共に家を出て、居場所を求ホテルへ移そうとするが奇遇にも二人は同じホテルで遭遇する。二人は意気投合し自然と結ばれた。

数日後チャーリーはミュリエルとの離婚協議のため、とあるオフィスを訪れていた。ミュリエルに雇われた敏腕弁護士は、当選金の既得権は全てミュリエルにあると主張した。そんな主張にチャーリーは「金はいらない。いざこざは嫌だ」といい、相手の要望をそっくりのんだ。しかしミュリエルの要求はそれだけではなかった。なんと、イボンヌに渡した200万ドルも返還するよう要求したのだ。これにはさすがのチャーリーも酷すぎると抗弁した。数日後裁判が行われた。ミュリエルの弁護士はチャーリーとイボンヌが不倫関係にあったと結論付け、陪審員への心証を悪くしたチャーリーは敗訴した。

それにより、もらった200万ドルを返還するはめになったイボンヌは開業したばかりのレストランも人手に渡る事となり、居たたまれなくなった彼女は裁判所を飛び出した。チャーリーはイボンヌを追うがチャーリーを不幸にしてしまった事に自責の念に駆られるイボンヌはチャーリーに「もう会わないほうがいい」と提言するがチャーリーのイボンヌに対する愛は変わらなかった。

それぞれの人生

無一文になっても二人の心は豊かさに溢れ、誰に対しても優しく接した。そんなある日、ホームレスが腹をすかせ二人に物乞いをすると、イボンヌたちは暖かいスープをふるまってやった。実はそのホームレスに扮した人物こそ、チャーリーたちを取材していたニューヨークポストの記者カメラマンであった。チャーリーとイボンヌの優しさを目の当たりにした記者は「ふたりの苦悩の日々」というコラムを掲載した。これにより二人の苦悩と優しさがニューヨーク市民に拡散され、二人には基金財団を通じニューヨーク市民から集めたチップが毎日のように届けられた。その総額はなんと60万ドルにも達していた。

その後チャーリーは怪我の為休職していた警官に復職しイボンヌは店を取り戻した。

一方ミュリエルは投資コンサルタントグロスと結婚するが、グロスはミュリエルの全財産を奪って逃亡した。

あなたに降る夢のレビュー・感想

大金を持った事のない人が大金を掴むとこうなっちゃうって事をミュリエルの結末がよく物語っているという感じですね。

結局最後に幸運を掴んだのは善人警官のチャーリーと心優しきイボンヌで、金に目が眩んだミュリエルは不幸のどん底にって事なんでしょう。

よく「お金がすべてじゃない」とか「愛があってもお金がなければ生きて行けない」とか色々言われますが、今回の場合は最後に愛が勝ったって事かな。

宝くじで高額当てるのも凄いけれど、その半分を単なる口約束であげちゃうところもまた凄い。でも、もっと凄いのがこの話が実話であるという事。多少なりとも脚色されているんでしょうけれど、宝くじに当たった事、イボンヌに半分上げた事、ミュリエルがグロスに騙されたことは事実なんでしょうから。

この映画25年以上前に作られたわけだから、実際の出来事はもう少し前になるんだろうけど、チャーリーにしてもイボンヌにしてもミュリエルにしても、この世のどこかにいる (亡くなっていたらごめんなさい)んだろうと思うと、それぞれが今、何を思い、どんな暮らしをしているのかがとても興味ありますね。

イボンヌみたいな美人さんじゃなくてもお金あげたの?ってな事も聞いてみたい(笑)

総合的に心温まるいい映画です。自分はチャーリーのような寛大さはないですが、でも、人に優しく、真面目にコツコツやっていれば、いつかきっといいことが起こるかもと素直に思いたくなる映画です。

マイレージ、マイライフ

マイラーに人生をかける独身男のコミカルドラマ

2009年製作  アメリカ  109分

監督

ジェイソン・ライトマン

キャスト

ジョージ・クルーニー  アナ・ケンドリック ヴェラ・ファーミガ  ジェイソン・ベイトマン  メラニー・リンスキー  ダニー・マクブライド  ザック・ガリフィアナキス  J・K・シモンズ

撮影ロケーション・情景

解雇通告 出張  空港  自己啓発セミナー  マイラー  アメリカン航空  ネブラスカ州オマハ  ヒルトンホテル  マイアミ  デトロイト  ミルウォーキー  シカゴ

マイレージ、マイライフのあらすじ

CTC社で働くライアン・ビンガム(ジョージ・クルーニー)は1年の大半を出張で過ごし全米中を飛び回るという超多忙な独身サラリーマン。彼の仕事は企業がリストラを行う際、相手の逆上を恐れ社員の首を切れない雇用主に代わり解雇を言い渡す事である。

月に数日しか自宅に帰らない彼は「空港が我が家」と公言して憚らず、この仕事をとても気に入っていた。移動は全て会社経費でビジネスクラス。ライアンはそんな特権を利用しマイレージを貯めアメリカン航空の1000万マイルの史上最年少達成者となる事を目標にしていた。

そんなある日、出張先のダラスのホテルでくつろいでいると、彼同様のマイラーアレックス(ヴェラ・ファーミガ)が隣席に座っていた。ライアンとアレックスはマイル貯めの極意について語り合っているうちに意気投合し男女の関係になる。

それから数日後、出張中だったライアンは社長グレゴリー(ジェイソン・ベイトマン)から急遽召集をかけられる。グレゴリーはアメリカ経済が史上最悪の不況にある中、自分のビジネスに更なる拍車がかかる事を見込んで、新たなビジネスモデルを画策していた。それはコーネル大学から才女として招かれたナタリー・キーナー(アナ・ケンドリック)の発案によるもので、年間250日以上を越える出張をチャットによる遠隔解雇システムに切り替える事で、経費を85%削減するという画期的な案件であった。

これにより解雇を言い渡すためわざわざ全米を飛び回る必要がなくなり、より多くのエリアで短時間で解雇通告を行う事が可能になるというもの。航空機を使う出張の恩恵でマイレージを貯めていたライアンにとって、これはお節介な発案であった。

この遠隔解雇システムの導入を決めていた社長グレゴリーに対し、ライアンは「この仕事の現実を分かっていない」と抗議した。するとそこにナタリーがやってきた。「私のアイデアいかがです?」と意気揚々とするナタリーにライアンは「チャットで俺をクビニしてみろ」とけしかけた。ナタリーの解雇シュミレーションにライアンは理路整然と反論し、ナタリーの解雇通告を論破した。甲斐なく落ち込むナタリーに対してライアンは「心理作戦を要する解雇通告の仕事はチャットでは不可能。本当にこの仕事を分かっているのか」とナタリーに駄目出しした。

その様子を見ていた社長グレゴリーは「出張を続けたいならナタリーを連れて実地教育をしろ」とライアンに命じ、ライアンは数日後ナタリーを連れてセントルイスへと向かう。

マイレージ、マイライフのレビュー・感想

オープニングで出てくる全米各地の風景を写した映像が面白く、この映画のテーマを簡潔に表現している感じでとてもマッチしてますね。

マイル貯めもあれだけ徹底すれば面白いんだろうとも思うし、この映画を観てマイル貯めに走る人が増えそう。

でもマイラーに人生をかけて最後に何が残ったのかといえば、それは単に“孤独”という寂しい二文字。ライアンはマイルそのものを貯める事が目的で、貯まったマイルを自分のためにどう使おうかという楽しみ方を知らなかったのが彼の悲劇ですね(最後は妹夫婦にプレゼントしましたが)

そしてライアンは結婚や家族というものに全く価値を見いだしていなかったけれど、ライアンがクビを切ってきた人たちの背景にはいつも家族がいて、アレックスにしても自分と同じ独身主義者だと思っていたら彼女にも家族がいて、さすがのライアンもこの時ばかりは孤独という寂しさに心をヘシ折れちゃったわけです。やっぱり人間て一人では生きていけない動物なんですね。

アンフィニッシュ・ライフ

アメリカの大自然を満喫できる素晴らしいロケーション

2005年製作  アメリカ  104分

監督

ラッセ・ハルストレム

キャスト

ジェニファー・ロペス  ロバート・レッドフォード  モーガン・フリーマン  ジョシュ・ルーカス  ダミアン・ルイス  カムリン・マンハイム  リンダ・ボイド

撮影ロケーション・情景

アメリカの片田舎  ワイオミング州  trailways bus アメリカ山脈 熊 牧場 保安官

アンフィニッシュ・ライフのあらすじ

日頃から恋人ゲイリー(ダミアン・ルイス)からDVを受けていたジーン(ジェニファー・ロペス)はゲイリーの凶暴さに堪えきれず一人娘グリフを連れて家を飛び出した。

宛てもないまま車を走らせるジーンであったが途中エンジンが故障し車は全く動かなくなった。

そこに通りがかったバイクの青年の助けを借りサウスダコタ州スーフォールズまで乗せてもらう。スーフォールズで降ろされた二人は地図を広げこの先どこに行こうか悩んでいたがジーンはワイオミングへ行くことをグリフに告げた。ワイオミングは今は亡きグリフの父グリフィンの生まれ故郷であり、グリフィンの父アイナー・ギルキソン(ロバート・レッドフォード)が牧場を営んでいたからである。

しかしジーンはギルキソン家とは疎遠になっていてグリフには祖父アイリーの存在を知らせていなかった。牧場に着くとジーンはアイナーに「あなたの孫よ」とグリフを紹介した。しかしアイナーは「何しに来た」と言わんばかりに二人を歓迎しなかった。アイナーは愛息子グリフィンを交通事故で亡くしておりその時運転していたジーンに怒りの矛先を向けしこりを残していたからである。歓迎されていないことを分かっていたジーンであったが、お金も底をつき切羽詰まったジーンは1ヶ月だけという約束でアイナーに頼み込み牧場で暮らす事になる。

アイナーの家には友人ミッチ・ブラッドリー(モーガン・フリーマン)が居候として一緒に暮らしていた。ミッチは一年前アイナーの仔牛を襲っている凶暴なヒグマを追い払おうとして大怪我を負ってしまい不自由な身体になってしまっていた。ある朝アイナーからミッチのところに朝食を届けるよう頼まれたグリフはミッチの痛々しい姿に初めは直視できないほどでいたが、ミッチはやさしかったためすぐに打ち解けることが出来た。

一方アイナーは、可愛い孫娘ができたというのに息子グリフィンの死を未だにジーンのせいにし恨んでおり中々二人に心を開こうとしなかった。

アンフィニッシュ・ライフのレビュー・感想

ワイオミングの大自然の中での撮影という事もあって、とにかく映像が綺麗。周辺にはスーパーやコンビニなどはもちろん皆無で、日々の生活をするうえでは不便な場所なんでしょうが、アメリカの片田舎に憧れる私にとって移り住むとは言わないまでも一日・二日ここで暮らしてみてもいいかなぁって思ってしまうほどの素晴らしいロケーションです。

ロバート・レッドフォードもこの時80歳近い年齢ですが、さすがはアメリカ人。ジーンズ姿がよく似合い歳を感じさせません。

ロバート・レッドフォードが演じるアイナーは子供に先立たれ未練な気持ちを引きずる父親を演じますが、アイナーがレストランでウエートレスに粗暴を振るう不良たちにフォークを突きつけ「人生は一瞬で変わるぜ」と言ったセリフがアイナーの今の気持ちをうまく表現していていいセリフだなあと思いました。そしてその後、「分かったか?!」と言って若造の帽子を払い飛ばすシーンがありますが、その立ち回りが演技とは思えないほどリアルで観ていて気持ちいいです。

モーガン・フリーマンはこの映画では主役ではないけれど、なんていうか、いつも冷静に客観的な目をもって主人公を戒飭する役が多いのですが、こういう役をやらせるとやっぱりフリーマンは上手で説得力がありますね。熊にあれほどの大怪我をさせられても「本能だから仕方がない」と言わんばかりに熊をどこかで許している所が実に寛大で器が大きい。

ロバート・レッドフォードが演じるアイナーにしても息子を嫁に殺されたと思い込んでいてジーンを中々許そうとしないんですが、それでも一生懸命に自分を変えようと努力している。誰かを責める事は簡単ですが、“許す” 術を養うことも人生ではすごく大事だなあって思います。

また特典映像に「静止画集」と称した95枚の撮影風景が盛り込まれています。先述したように映像(画像)がとても綺麗でアメリカの大自然を満喫できます。

カンパニー・メン

失業の怖さ。“隣の芝生”が青く見えはじめた人に観てもらいたい映画

2011年製作  アメリカ  113分

監督

ジョン・ウェルズ

キャスト

ベン・アフレック  ケビン・コスナー  クリス・クーパー  トミー・リー・ジョーンズ  ローズマリー・デウィット  マリア・ベロ

撮影ロケーション・情景

ボストン インテグレイション企業  リストラ アメリカ郊外  ポルシェ 就活・起業

カンパニー・メンのあらすじ

GTX社解雇

ボストンに暮らすボビー・ウォーカー (ベン・アフレック)は年商120億ドル規模のインテグレイション企業GTXで販売部長として働いていた。ボビーは37歳という若さであるが年収は12万ドル。郊外には噴水付きの真っ白な豪邸を構え、愛車ポルシェで会社に通うというような華々しいし生活を送っていた。しかし2008年に起きたリーマン・ショックの影響でGTX社内の造船部門の業績が悪化し、大規模なリストラが敢行されボビーは解雇を言い渡されてしまう。

“リストラ空気”は瞬く間に社内に広がり、わが身を案じて戦々恐々とする雰囲気に社内は包まれていた。その中のひとりにフィル・ウッドワード (クリス・クーパー)がいた。フィルにはまだ学費のかかる子供が2人おり年齢的にも潰しのきく状況ではなかった。フィルは副社長であるジーン・マクラリー (トミー・リー・ジョーンズ)に「30年も勤めてクビニなるならここで銃を乱射してやる」と凄んだがボビーが解雇された事をジーンは知らされておらず、リストラは社長ジェームズ・サリンジャー -(クレイグ・T・ネルソン)の独断で行われたものだった。

翌日ジーンは社長ジェームズに「なぜ私に黙ってリストラを行ったんだ」と詰め寄った。ジェームズは「社員より株主に対して責任がある」と更なるリストラ敢行を示唆した。失業中のボビーは再就職支援センターに通い、職を探す日々を送っていたがボビーはすぐに再就職できるものと高を括っていて支援センターでのレクチャーにも本腰を入れなかった。

ある日そんなボビーの元をジーンが訪ねる。ボビーは今までもジーンに目を掛けられ可愛がられていた。ボビーのリストラを阻止できなかったジーンは済まなそうな顔をし「私は反対(解雇に)したがどうにもならなかった」と言い、代わりにロックヒード社とレイシオン社の面接のコネを作ってやった。しかしボビーはそんなジーンの気遣いを蹴りその場を立ち去った。

ウォーカー家の財政難

家に帰ると妻マギー(ローズマリー・デウィット)が家計のやり繰りに頭を悩ませていた。ボビーの収入が途絶えてしまった今、住宅ローン、矯正歯科医への支払い、夏に予定している旅行代金、ポルシェのローンなど、家計は苦しかった。マギーは再び病院で看護師のパートの仕事を始める覚悟でいたが、ボビーは現実を直視しようとせず、妻の職場復帰には賛成しなかった。

それから数日後ボビーは3M社という企業の面接を受ける。しかし前職と同じ販売部長の役職ではGTX社で貰っていた年収の半分くらいになってしまうため、ボビーはマーケティング部門長を希望した。しかしマーケティング部門長のポストは適任者の応募が多くそこに就く事は難しいと担当者が難色を示されると、ボビーは「僕こそ適任者だ!」と尻を捲りその場から立ち去ってしまう。またもや再就職支援センターに通う事になるボビーであったがボビーの希望に合致する仕事は中々見つからない。

ある日ボビーは妻マギーの兄ジャック(ケビン・コスナー)邸のパーティーに招待された。ジャックは建築業を営み職人を数名使っていた。ジャックがボビーに「仕事は順調か?」と聞くとボビーは「順調だよ」と答え見栄を張った。しかしジャックはGTX社の業績不振にまつわる記事を新聞で読んでいてボビーの失業は薄々察していた。ウォーカー家の身を案じたジャックは「困ったら俺が雇ってやる」と助け舟を出すも、過去の栄光を忘れられないボビーは「釘を打つ自分は想像できない」と折角の好意を無下にした。

社長ジェームズと副社長ジーンとの確執

社長ジェームズと副社長ジーンを柱とするGTX社経営陣たちは会社の立て直しに必死だった。ジーンはジェームズに建設中の新社屋と医療部門の売却を勧めるがジェームズは聞く耳を持たず再びリストラを敢行する方針を示し、次なる解雇者のリストを作るよう人事担当者に指示した。ジェームズの独裁的な采配に我慢ならなくなったジーンは「リストラは間違っている」とジェームズに警告するもジェームズは考えを変えようとしなかった。そんな中次なるリストラの候補として挙がったのが部長のフィル・ウッドワード (クリス・クーパー)であった。

フィルにはまだ学費のかかる子供が2人いて、年齢的にも潰しのきく状況ではなかった。ボビーの解雇を発端に社内に“リストラ空気”が広がり始めた時から、フィルはわが身を案じ戦々恐々とする日々を送り、ジーンに「30年も勤めてクビニなるならここで銃を乱射してやる」と凄んだ男である。

フィルとジーンの解雇

ボビーが職探しを始めて3カ月が過ぎた時の事である。ボビーはある人物からの推薦で、とあるベンチャー企業の面接をうけた。年収9万ドル+賞与という好条件で北東部の販売部長としてのポストを掴みかけたが、結局他の応募者にその座を奪われ、数日後内定取り消しの連絡がもらった。がっくり肩を落とすボビー。彼は遂に愛車ポルシェを売却した。

そんな中第2弾となるリストラ計画は着々と進められ遂にフィルも解雇された。ジーンはフィルの解雇を通告した人事部のサリー(マリア・ベロ)を呼び出し解雇を取り消すようサリー詰め寄った。サリーはジーンの愛人である。ジーンはフィルがリストラの候補として挙がった時からサリーに根回しをしていたがサリーは私情を挟まずフィルの解雇を敢行した。そしてサリーは社長ジェームズから預かった1枚の書類をジーンに見せた。それはジーン自身への解雇通告書であった。ジェームズにとって反目したジーンはもはや目の上のたんこぶに過ぎなかったのである。

数日後ボビーが通う再就職支援センターへGTX社を解雇された者たちが次々とやってきた。もちろんその中にはフィルもいた。フィルもボビー同様インストラクターから再就職のためのレクチャーを受けるが、高飛車に接するインストラクターに堪えきれなかった。

義兄ジャックの支え

一方ボビーは、住宅ローンの支払いにも事を欠く状況になっていた。ボビーはどんなことがあっても家を手放す事だけはしたくないと思っていたが背に腹は代えられず家を売却しボビーの実家に移り住むことになる。更に「釘を打つ自分は想像できない」と一度は断った大工仕事を義兄ジャックを再び訪ね雇ってほしいと頼み込んだ。本当に来たかというような顔をしながらもジャックはボビーを受け入れた。右も左もわからない畑違いの仕事にボビーは戸惑いながらもひたむきに取り組もうとするが、義弟とはいえジャックはボビーに厳しかった。ここからボビーの過酷な肉体労働の日々が始まる。

ボビーは少しずつ大工仕事に慣れ働きぶりも様になってきたある日、ジャックから初給料を貰った。封筒の中身を見ると少し余分に入っていた。ボビーがジャックに「200ドル多い」というとジャックは「計算ミスかな?」ととぼけた。彼の優しさである。

一方役員を解任され解雇になったジーンはこの先の身の振り方について息子に相談したりもしたが息子は「コンサルタント会社を起業してアドバイスでも売ったら」とおちゃらかした。笑い飛ばすジーンであったが実際は妻が家の売却を考えるほど深刻であった。

ジーンは自分のこともさることながらフィルの事も気遣っていた。心配したジーンはフィルを慰めようと彼に会いに行くがフィルは相当参っており、就職支援センターへも行かず昼間から外で酒に溺れる日々を送っていた。解雇が近所にバレぬよう妻から6時まで家に帰るなと言われていたからである。

ある日ボビーの元にシカゴのヘッドハンターからオファーが舞い込む。輸送業務の販売部長のポストである。ボストンからシカゴへは850マイルも離れているが今の生活から1日も早く抜け出したかったボビーは二つ返事で承諾した。意気揚々と面接を受けにシカゴに飛んだボビーであったがアポの日にちを1週間間違えていた。遠方のため出直せないので待たせて欲しいと告げるがダラスに出張中なので来週まで帰らないといわれた。肩すかしを喰らったボビーはシカゴの街で途方に暮れた。

フィルの自殺

フィルはある人物のツテである企業の海外担当の重役ポストに就こうと根回しをしていた。しかし海外出張の多いポストのため30歳以下の若者でないと難しいと断られ、「君を推薦したら会社で笑いものになる」とまで言われた。フィルは自分の不甲斐なさに失望した。

収入を閉ざされたままのフィルは娘の授業料や住宅ローンの支払いに迫られ自暴自棄に陥っていた。どうにでもなれとばかりに飲酒運転をし古巣のGTX社に汚い言葉を吐きながら石を投げつけるなどの悪態も着いた。そしてフィルは自宅のガレージで排ガス自殺をし命を絶った。

ボビーとジーンの新たな人生の始まり

ある日ジーンはGTX社に出向き社長ジェームズに声をかける。「元気にしてたか」と偽善者ぶるジェームズにジーンは「フィルの葬儀で会えると思った」とあげつらい、共に働いた仲間のクビを簡単に切る薄情さを訴えた。ジェームズが「慈善事業じゃない。仕方ない」というと、ジーンは「会社が傾きかけているのに未だ年収2200万ドルを得て保身に走るのはおかしい」と傲慢さを抗議したがジェームズは考えを変えなかった。ジーンはボビーを誘い海運事業の起業を決心する。フィルの死を無駄にしたくなかったからである。ジーンに誘われたボビーはこのままジャックの仕事を手伝おうか、ジーンについていくべきかジャックに相談した。ジーンからのオファーは報酬8万ドルでGTX社時代の半分である。ジャックはボビーに「その仕事に就け。君は大工に向かない」とボビーの背中を押した。そしてボビーとジーンの新たな人生が始まった。

カンパニー・メンのレビュー・感想

“隣の芝生”が青く見えはじめた人に観てもらいたい映画

人は誰でも仕事に慣れるとその仕事に就いた喜びや有難さを忘れてしまうもの。そしていつしかそれがおごりとなってプライドが先行し自分を過大評価してしまう。しかし自分を評価するのはあくまでも他人。自分が思う「自分」と他人が思う「自分」は必ずしも合致しないという事をこの映画は教えてくれます。

もし今の職場で“隣の芝生”が青く見えはじめ、安易な理由で転職を考えている人がいるとしたなら、そういう人にぜひ見てもらいたい作品です。

ラスト・ムービースター

ヘタな恋愛ドラマを観るよりも本当の愛が何かということを理解させてくれる

2017年製作  アメリカ  103分

監督

アダム・リフキン

キャスト

バート・レイノルズ  アリエル・ウィンター  ニッキー・ブロンスキー  チェビー・チェイス

撮影ロケーション・情景

ハリウッド メルセデスベンツ  ロサンゼルス国際空港  ナッシュビル モーテルデラックスホテル 老人ホーム  トランザム  加齢・年輪  過去恋愛の回想

ラスト・ムービースターのあらすじ

かつて大人気を博したハリウッドの稀代スター、ヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)は昔の勢いも鳴りを潜め、ハリウッドにある大邸宅に愛犬スクワントとひっそりと暮らしていた。

ある日スクワントを獣医師の元に連れて行ったヴィックは高齢スクワントの腎臓障害を聞かされ安楽死を勧められる。長年連れ添ったスクワントとの別れは辛かったが体に毒素がたまり苦しむスクワントの事を考えると安楽死を受け入れるしかなかった。

自宅に帰りスクワントのペットクッションを見つめながら心寂しく酒を飲むヴィック。

それから数日たったある日、ヴィックの元に国際ナッシュビル映画祭での特別功労賞の招待状が届く。過去の受賞者としてロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソン、クリント・イーストウッドなど錚々たる名優たちの名前が列記されていたが、映画の街ではないナッシュビルでの開催にヴィックは胡散臭さに難色を示したが俳優仲間のソニー(チェビー・チェイス)に強く勧められ渋々ナッシュビルへ向かう事を決心する。

出発の日、空港で搭乗手続きをしようとファーストクラスのカウンターに並んでいたヴィックはカウンタ職員に隣の列に移るよう指示された。映画祭から同封されていたエアチケットはエコノミーのチケットだったのである。かつての大スターヴィックにとってエコノミーでの移動は惨めそのものだった。

ナッシュビル空港に到着し、ターミナルの出口で主催者の迎えを待っていると一台の白いリムジンが横付けされた。これで少しはデラックスな気分に浸れると期待したヴィックだったがそのリムジンは既に別のお客が乗車していて肩透かしを食らう。するとそこに1台のポンコツセダンが止まり運転席から若い女性が降りてきた。ヴィックを迎えに来たリル(アリエル・ウィンター)である。

彼女はインチキ映画祭主催者ダグの妹で、リルはヘソだしのショートパンツに鼻ピアスという奇抜な風貌だった。

リルはヴィックを強引に車に乗せホテルに向かうがリルの運転は非常に乱暴でハンドルを握りながらケータイでメールを打ち対向車と衝突しそうになる。かつて数々のカーチェイスを演じてきたヴィックでもさすがに気が気ではなかった。やっとの思いでヴィックはホテルに着いたが一流ホテルを用意すると聞かされていたヴィックは目を疑った。そこはハイウエイ沿いにある一流ホテルとはかけ離れたしがないしがないモーテルだった。騙された事を確信したヴィックは「話が違う。すぐ空港に引き返せ」とリルに詰め寄るが「私は運転手を頼まれただけ」と取り合おうとしない。

散々な思いをしたヴィックは友人ソニーに電話をかけ愚痴をこぼすがソニーからは「せっかくの映画祭だ。デ・ニーロやイーストウッドのように楽しんで来い」といわれそのまま居残る事にした。疑心暗鬼のままリルに連れられ映画祭会場に着くとそこは“マクドゥーガルズ”というバーだった。中には“ようこそヴィック・エドワーズ”という垂れ幕が下がっており主催者ダグらはヴィックを歓迎したが、ここは案じたとおり映画祭とは名ばかりの単なるヴィックのファンクラブの集まりであった。

しかしヴィックはいかさまの映画祭とは分っていながらも自分をファンだといって讃えてくれる若者たちに精いっぱいの愛想を振りまき次第に彼らちと打ち解けていく。

ラスト・ムービースターのレビュー・感想

バート・レイノルズ最後の主演作品

「ラスト・ムービースター」というタイトルのとおり、この映画収録の約1年後にバート・レイノルズは亡くなってしまいました。渾身の力で演じきった彼の最後の主演作品なので非常に感慨深いものを感じます。このストーリーはかつての大スターが紆余曲折しながら人生を歩んできた彼自身のセルフパロディとして描かれています。

僕自身、バート・レイノルズといえば真っ先に浮かぶのが「トランザム7000VS激突パトカー軍団」や「キャノンボール」などのカーアクション。本編の中でヴィックがリルにノックスビルに向かわせようと無理強いし、キレたリルが過激にハンドル操作をするシーンがあるのですが、リルの顔が突然「トランザム7000・・」のバンディットの顔に切り替わり荒々しい運転をするバンディットにヴィックがスピードを落とすよう窘める場面があるんですが、このカットを作ってくれた事が凄くうれしいというか懐かしくなっちゃいます。(同じ人物でもこんなに変わってしまうものかと)・・・

またヴィックがリルを連れ一流ホテルに泊まろうとしたときフロントの女性にシビアな対応され「クリント・イーストウッドが来ても追い返すのか?」と言い返すシーンがあるのですが「クリント・イーストウッド」を引合いにだしたセリフが別のシーンでも何度か出てくるのでイーストウッドを結構意識していたんでしょうか。

愛が何かということを理解させてくれる作品

終盤、ヴィックが別れた妻シュルマンを訪ね、彼女を大切にしなかったことや、家庭を顧みず壊してしまった傲慢さを詫びる場面があるのですが、この時のヴィックの姿がすごく自然で、ヘタな恋愛ドラマを観るよりも愛が何かということを理解させてくれるし、遥かにピュアで美しいですよ。凄く清らかな気持ちで観終える事のできる作品です。バート・レイノルズよ安らかに~

グラン・トリノ

「遠い親戚より近くの他人」の象徴を見せられる

2008年製作  アメリカ  117分

監督

クリント・イーストウッド

キャスト

クリント・イーストウッド  ビー・ヴァン  アーニー・ハー  クリストファー・カーリー  ジョン・キャロル・リンチ  スコット・イーストウッド ドリーマ・ウォーカー

撮影ロケーション・情景

デトロイト グラントリノ アメリカの郊外 フォードF250 アメリカの葬儀

グラン・トリノのあらすじ

頑固で頭の固いウォルト・コワルスキー (クリント・イーストウッド)は長年勤めたフォードの工場を引退し妻ドロシーとデトロイトに暮らしていたが不幸にも妻が他界。場面は亡き妻ドロシーの葬儀のシーンから始まる。

葬儀には長男次男夫婦、またそれぞれの子供たちが参列しドロシーを弔う。しかし参列した孫たちは“ヘソ出し”の格好で現れたり、礼拝する際下ネタの呪文を唱えたり、ミサの最中携帯をいじったりと無礼千万を極めていた。ウォルトはそんな礼儀知らずの孫たちを嘆かわしいとばかりに睨み付けた。葬儀中不機嫌な顔を露骨に見せるウォルトに気付いた長男と次男であったが二人はそんな堅物のウォルトを日頃から毛嫌いしており、葬儀の最中にもかかわらず父ウォルトのこの先の面倒を互いに押し付け合っていた。

葬儀も無事終わり親戚たちが一同揃って会食をしている中、孫たちがウォルト邸の地下室で界隈を物色していると大きな箱の中から1952年当時のウォルトの朝鮮戦争時代の写真と勲章を見つけた。するとそこにウォルトが椅子を取りにやってきた。孫たちはあわてて箱のふたを閉めたたが孫たちが何かを物色している様子を感じたウォルトは言葉も掛けず不機嫌そうな顔をし椅子を抱え地下室から出て行った。また一方では“ヘソ出し”の孫娘カレンがガレージで煙草を吸っていると半分シートをかぶったビンテージカーに気付いた。ウォルトの愛車1972年製のグラン・トリノである。そこにウォルト現れた。カレンはとっさに煙草を投げ捨て「おじいちゃんこんな凄い車いつ買ったの?」と媚を売るも「1972年だ」とそっけない返事をしカレンが捨てた煙草を足で踏み消した。このようにウォルトは孫たちに対し慈しみをもって接しようとはしなかった。

ある日、隣りに住むモン族のタオ(ビー・ヴァン)がウォルトにジャンプケーブルを借りに行くと「そんなもの持ってない!礼儀をわきまえろ。うちは喪中だ」と一蹴し取り合おうとしなかった。このようにウォルトは身内のみならず、近隣にとっても、近寄り難い存在であった。ウォルトがこんな意固地な性分になってしまったのは朝鮮戦争で17歳の少年を銃剣で殺してしまった自責の念に呵責まれていたからである。

ある日タオが自宅で庭の手入れをしているとモン族のギャングたちが現れ仲間になれと強要しタオを誘い入れウォルトの愛車であるグラン・トリノを盗めとタオをけしかける。逆らうことが出来ないタオは言われるままガレージに忍び込んだ。物音に気付き誰かが車を盗みに来たと察したウォルトは銃を片手にガレージへ向かい銃を構えるがウォルトが足元につまずき倒れ込んだため、タオは間一髪のところで逃れた。辺りが暗かったため盗人がタオであることはウォルトは気付いていなかった。

車を盗み損ねたタオだったがそれから彼のもとへ更に悪事に手を染めさせようとモン族のギャングたちは頻繁に姿を現すようになる。ある晩無理やりタオを連れ出そうとモン族のギャングたちと庭でもみ合っていると自分の庭にまで入り込んで騒ぎを起こしているギャングたちに我慢しきれなくなったウォルトが銃をかまえ家から出てきた。ギャングたちに少しも怯む様子をみせず「俺の芝生から出て行け」と銃を構え威嚇した。ウォルトの威勢に観念したギャングたちは「覚えとけよ。この借りは返すからな」といって引き退がった。タオの姉スー(アーニー・ハー)がウォルトに「タオを助けてくれてありがとう」と礼をいったがウォルトはまたもや「俺の芝生から出て行け」と言い放ち家の中に戻った。相変わらずの意固地ぶりである。

翌日ウォルトが家にいると玄関先で何やら物音がした。ドアを開けると食べ物などが玄関先に届けられていた。タオの家族や親族たちがタオを助けたウォルトを英雄視し、お礼として頻繁に貢物を届けるようになっていたのだ。そんな一家にウォルトは「助けたつもりはない。ただ自分の庭からゴロツキどもを追い出しただけだ」とつれない態度で一家をあしらおうとした。するとタオが「車を盗もうとしたのは自分だ」とウォルトに打ち明けた。怒りを隠しきれないウォルトは「もう一度偲びこんだら命はないぞ」と警告した。

それから数日後、タオの姉スーがボーイフレンドのトレイ(スコット・イーストウッド)と街を歩いていると3人の黒人の不良たちが絡んできた。トレイはスーを辱めようとからかう不良たちからスーを助け守ろうともしない臆病者だった。そこに偶然ウォルトが車で通りかかる。ウォルトはスーを助け不良たちを蹴散らした。ウォルトは悪さをする不良たちは元より、スーを助けようとしなかった臆病者のトレイに腹が立った。スーを車に乗せたウォルトは「あんなヘナちょこのボーイフレンドはやめとけ」と苦言した。

ある日ウォルトが自宅のポーチでくつろいでいると向かいの家の主婦が車から大量の荷物に手をやき困っている光景を目にした。そこに3人の若者が通りかかるが誰一人手を貸す者がいない様子にウォルトは失望する。しかしそこに一人の青年が現れた。タオである。タオは「大丈夫ですか。手伝いますよ」といって散らばった荷物を拾い荷物を運んでやった。それを見ていたウォルトは感心した。

数日後、ウォルトが自宅のポーチで缶ビールを飲んでいるとそこにスーが現れた。一人淋しく飲んでいるウォルトに「家でバーベキューをやるから来ない」と誘った。ウォルトは「ここで飲んでいる方がいい」と断ったが丁度クーラーボックスのビールが底をついたためスーの好意を受けた。招かれたウォルトはモン族の習慣や文化の違いに少し戸惑ったがすぐに彼らと打ち解けることが出来た。おしゃべりに花を咲かせているとスーは地下室にウォルトを誘った。そこにでは若者たちだけのパーティーが行われていた。当然そこにはタオもいた。スーがウォルトに「私の弟よ」とタオを指さすとウォルトは「グラントリノを盗み損ねた“トロ助”だ」と侮った。内気なタオは仲間たちに馴染め切れておらず一人ぽつんと孤立していた。ウォルトはタオに車を盗み損ねた間抜けさを引合いにだし、女友達とも口をきけないほどの不甲斐なさを叱咤した。以来、ウォルトはタオを“トロ助”と呼ぶようになる。

ある日タオとスーたちがウォルトの帰りを玄関先で待っていた。ウォルトが「どうした?」と事情を聴くとスーが「タオに車を盗もうとした償いをさせて欲しい」と申し入れた。一旦は申し入れを断ったウォルトであったが強引な申し出にさすがのウォルトも押し通されてしまった。翌日からタオはウォルトの家で奉公をする事になるがこの日を機にウォルトはタオを一人前の男に仕込んでいく。

グラン・トリノのレビュー・感想

老いても凛々しいクリント・イーストウッド

マディソン郡の橋”あたりから少しずつ老け込みをみせ始めたクリント・イーストウッドですが、特にこのグラントリノあたりからはかつての若かりし頃のイーストウッドのイメージとはまるで別人のようです。

でも生まれながらの上背で背筋をピント伸ばした雄々しい姿はやはりシャレているし、もし自分がその歳になったらあんな風に振る舞えるかといえばかなり疑問。イーストウッドはこのグラントリノから10年後に撮影された「運び屋」でも更に老いた主人公を演じていますが、同じ“老人役”でもグラントリノと運び屋では全くタイプが違い、グラントリノでは内向的で頑固な役柄、運び屋では外交的でコミニュケーションに長けた犯罪者役。

僕としてはやはりイーストウッドといえば口数が少なく、少し内向的なほうがイーストウッドらしくて個人的には好きですね。この映画の主役はもちろんクリント・イーストウッドなんですが、他のキャストはほとんど無名の役者さん。そんな状況でもこんなに感慨深い映画になっちゃうっていうところがクリント・イーストウッドの凄さというか、ど偉いオーラを感じます。

遠い親戚より近くの他人

グラン・トリノの感想ですが朝鮮戦争のトラウマから意固地な性分が形成された人物という設定になっていますが、それだけでなくウォルトの生まれ持った性格が多分に影響しているのだと思います。ウォルトと息子たちとの年齢的な環境が丁度僕の境遇にマッチしていて色々と考えさせられる場面も多かったんですが、少なくとも互いに理解し合おうとする努力が欲しかったですね。

ウォルトがタオを一人前の男にしようと奉公させていくうちにタオを認め始めたのはタオの実直さもあるのでしょうが自分の子供たちとの距離というか心の隙間をタオという青年を重ね合わせることで充たしたかったのではないかと思います。

よく「遠い親戚より近くの他人」って言いますが、本来このウォルトという老いた者の心に、子供や孫たちが寄り添うべきだったのでしょうけれど、結果的にこのタオという青年がウォルトに手を差し伸べ救い手となったわけです。

ウォルトの身体を病が蝕み始め吐血した時に、ウォルトがほんの少し憶病になり子供たちに電話を入れるシーンがありましたが、これこそが親子の自然な姿のはず。しかし結局親身に理解しようとしたのはタオという他人だったというところが少し悲しいです。

ウォルトが死に、愛車グラン・トリノを誰に相続するかという遺言書が読み上げられる場面で「愛車グラン・トリノをタオに譲る」と聞かされた時の孫娘カレンのがっかりした顔がとても印象的です。まさに「遠い親戚より近くの他人」の象徴を見せられた感じです。

「獅子はわが子を千尋の谷に落とす」

黒人に絡まれ怖気付く意気地のないトレイ役を演じたのがクリント・イーストウッドの息子スコット・イーストウッド。  後にも先にも彼が出てくるのはこの絡まれるシーンのみ。

「父クリントよ、もう少しましな役で出演させてやっもいいんじゃないの?」って思ったりもするけれど、でも逆にそれがクリントの愛情というか、息子だからといって決して甘やかさない、まさに「獅子はわが子を千尋の谷に落とす」っていう事なんでしょう。