老紳士の疎外感を巧みな脚本が見事に表現
2002年製作 アメリカ 125分
監督
アレクサンダー・ペイン
キャスト
ジャック・ニコルソン キャシー・ベイツ ホープ・デイヴィス ダーモット・マローニー ジューン・スキッブ レン・キャリオー
撮影ロケーション・情景
アメリカネブラスカ州オマハ 定年退職 キャンピングカー アメリカの葬儀 エプリー・エアフィールド(オマハの空港) ミッドウェスト航空 キャデラックコンコース ネブラスカ州グランドアイランド郊外 ネブラスカ州ホールドレッジ ネブラスカ州カーニー コロラド州デンバー アメリカの結婚式
アバウト・シュミットのあらすじ
ネブラスカ州オマハに住むウォーレン・シュミット(ジャック・ニコルソン)は永年ウッドメンという保険会社で保険数理士として働いていたが、いよいよ引退の日を迎える事に。
これからは妻ヘレン(ジューン・スキッブ)と余生を楽しみ全米中を妻と一緒に旅しようと大きなキャンピングカーを購入した。シュミット夫妻にはジーニーという一人娘がいるが彼女は結婚式準備のため嫁ぎ先であるデンバーに滞在していた。そんな楽しい余生が待っているはずだったが、実際に引退してみると毎朝決まって7:00には目を覚ましてしまい、心にポッカリ穴があいたような 満たされない生活であった。
ある日ウォーレンが自宅でテレビを見ていると飢餓に苦しむ世界中の子供たちへの支援団体「チャイルドリーチ」からの義援金を募るコマーシャルが目に留まった。それがきっかけでウォーレンは6歳のンドゥグという少年の養父になる事を決心する。そして金銭的援助に留まらず、ンドゥグへ手紙を書き自身の生活ぶりや家族について綴ったりしていた。
数日後、郵便局に出かけたウォーレンが用事を済ませ自宅に戻ってみると、妻ヘレンが心臓発作で倒れており帰らぬ人となってしまった。今まで生活の全てをヘレンに任せていたウォーレンは、以来、掃除も片付けもできず、足のふみ場もない程だらしない生活を送るようになってしまった。
独りぼっちになり益々満たされない生活を送っていたウォーレンは、ある深夜、突然目を覚まし「俺はオマハデ何をしてるんだ。家族は一緒にいるべきだ」という想いに駆り立てられ一人キャンピングカーに乗り娘の住むデンバーを目指す決心をする。
アバウト・シュミットのレビュー・感想
些細なところにアメリカと日本の差を感じる
「保険数理人」という職業がある事を僕は知りませんでしたが、一般的にはアクチュアリーと呼ばれているらしく、生命保険や損害保険などの金融商品を設計する仕事らしいですね。
そういったいわゆるエリート畑で仕事をしてきたからなのでしょうが、ウォーレンは在職中リンカーンをマイカーとして所有し、定年退職後も豪華なキャンピングカーを購入するなど、私たち日本人が定年退職して余生を送るイメージと比べると、やはりアメリカはスケールが違うなあという感じです。
もちろん日本だって戦後、高度経済成長を遂げ経済大国となったわけですし、それらの比較が全てではありませんが、そんな些細な部分でも冷静に見ると、子供の頃、アメリカのホームドラマをみて「こんな豪勢な生活してるの?!アメリカってすげ~え!」と感じたあの気持ちが蘇りますね。
さて映画の中身ですが、退職後すぐウォーレンは自分のいなくなった職場が気になり、ウッドメンに立ち寄るシーンがあります。“自分がいなくなって会社は回るのか?”という一種の思い上がりですね。(笑)
20年以上勤めた会社を辞めた経験が僕にもあるのでその気持ちよく解ります。でも現実は、自分一人くらい会社を抜けても立派に回るものなんですよね。ほとんどの場合。(笑)「あなたがいなくてもちゃんと会社は機能していますよ」という事をウォーレンを傷つけないように窘める後任者の振る舞いが上手に描かれています。
ロードムービーならではのアメリカのローカルな風景が楽しめる
また、デンバーにいる一人娘ジーニーへ会いに行くまでの道中が結構描かれていますのでロードムービーならではのアメリカのローカルな風景が楽しめます。それと脚本がいいと映画ってやっぱり光りますね。ンドゥグへの手紙に綴られる言葉、妻や娘と交わす言葉、そしてこの映画の本質ともいえる老紳士の疎外感を巧みな脚本が言い表しています。
見逃さないで欲しい特典映像
そして絶対に見逃さないで欲しいのが特典映像ですね。コンテンツがすごく面白いです。
監督が編集担当者のスキルアップのために、本編とは違う別の風景をセカンドカメラマンに撮らせ、それを使い仮想のオープニングとして作らせた映像です。
ウッドメンビルと、うら寂しいオマハの風景を使い、複数の編集担当と音楽担当がタッグを組み仮想のオープニングを5パターン製作したわけですが、情景はほとんど同じなのに使用する音楽と編集方法の違いによって映画の趣きが全く変わってしまうのが面白いというか不思議です。映画ってこんな風に作られていくのかと感心させられますよ。