トム・ハンクスの役作りの凄さと観る者を飽きさせないストーリー展開
2000年製作 アメリカ 144分
監督
ロバート・ゼメキス
キャスト
トム・ハンクス ヘレン・ハント ニック・サーシー
撮影ロケーション・情景
航空貨物 テネシー州メンフィス アメリカの片田舎 メンフィス国際空港 航空機事故 モスクワ 南太平洋クック諸島 過去恋愛の回想
キャスト・アウェイのあらすじ
チャック・ノーランド(トム・ハンクス)はテネシー州メンフィスを拠点とする物流サービス企業フェデックスで物流システムエンジニアとして世界を飛び回っていた。チャックにはケリー(ヘレン・ハント)という恋人がいて、いずれプロポーズをする事も考えていた。
あるクリスマスの夜、ケリーを招き親族一同で食事をしていると、チャックのポケベルが鳴り急遽マレーシアへの出張命令が下された。このため二人はクリスマスプレゼントを渡すタイミングを失い、チャックを空港まで送って行く車中で互いにプレゼントを渡し合った。ケリーからのプレゼントは祖父の形見である懐中時計で、そこにはケリーの写真が焼き付けられていた。一方チャックからは日記帳とポケベル、それにハンドタオルが贈られたが、ハンドタオルはおふざけで、彼はそっとポケットから本命であるプロポーズ用の指輪を出しケリーに渡した。本当は年末の大晦日に渡そうと準備していたものだったが、なぜかこの場で渡すことになり、チャックはマレーシアへと旅発った。
しかし、不運にもチャックを乗せたフェデックスの貨物便は、悪天候により航路をだいぶ逸れ、コントロールを失った挙句、南太平洋に墜落してしまう。膨大な量の海水が機体に浸水し、沈みゆく機体から海へと投げ出されたチャックは必死に緊急用救命ボートにしがみ付き困難に立ち向かうが、そのまま意識を失ってしまう。一夜が明け、意識を取り戻すとチャックはある島に漂流していた。墜落した衝撃で機体から放り出された多くの宅配物が海に散らばり、哀しげに砂浜に打ち寄せられる。起きた現実をまだ理解できないチャックは、朦朧としながらも生業とする大切な荷物を必死に拾いながら大声で叫び救助を求めるが、そこは人ひとりいない、淋しい無人島であった。その日から4年に及ぶ、チャックの孤独で過酷なサバイバルが始まる事になる。
チャックは直に喉の渇き、空腹に苦しめられるようになり、拾い集めたフェデックスの荷物を手当たり次第に開け、飢えに備えるための道具に使えるよう知恵を絞った。スケート靴の刃の部分を使いヤシの実を割ったり、布きれを足に撒いて靴の代用をしたりチャックは必死に現実と向き合った。次第に魚を獲る技術も覚え飢えには何とか対処できるようになったがチャックを最も苦しめたのは猛烈な孤独感であった。
チャックはある日火を起こそうとして手に傷を負ってしまう。手からは血が流れ、怒ったチャックは傍においていた荷物のひとつであるウイルソン製のバレーボールにあたり放り投げてしまう。ところが、その真っ白なバレーボールには怪我をしたチャックの血痕で手形がつき、不思議とボールは人の顔のような様相になった。チャックはその手形に目を入れ、鼻を書き、口を書くなどして人の顔に見立て、ウイルソンという名前まで付けた。チャックは日々ウイルソンに話しかけるようになり、以来そのボールがチャックの唯一の心の拠り所になっていった。
キャスト・アウェイのレビュー・感想
ストーリーの半分以上をトム・ハンクス一人で演じているのに観ている者を飽きさせない
このキャスト・アウェイという映画ですが、シチュエーションの柱となっているのが実在するフェデックスという企業である事や、ストーリーがそれほど複雑ではないのに映画化された事、そしてその単純なストーリーにもかかわらず情景が凄くリアルに描かれているという点から、一瞬、実話?と思わせるような作品です。でも調べてみるとこの作品、全てフィクションという事らしいです。
この映画の上映時間は2時間24分なんですが、そのうちの約1時間15分はトム・ハンクス一人で演じています。それでも全く観ている者を飽きさせないストーリー展開というか情景を一こま一こま上手に描いるところが見事です。
そして何よりトム・ハンクスの役作りが凄い。漂流する前は少しブヨブヨとした体系をしていたチャックですが、サバイバルをしていくうちに段々と痩せ細っていく姿は実にリアルです。事実、この役を演じ切るために22.7kg減量したそうなので役者魂とはいえ凄いですね。
宗教が存在する理由が何となく理解できる
僕はこの映画の中で特に印象に残っているのがウイルソン製のバレーボールに人の顔を書いて、それにウイルソンという名前を付けボールを崇めるシーンです。ところがある日暴風雨に襲われウィルソンは海に落ち消えて行ってしまうのですが、チャックが必死にウイルソンを助けようとするんですね。これは大切なわが子を救おうとする場合の親心と一緒です。唯一の心の拠り所となっていたウイルソンは単なるボールではなくチャックの友達になっていたのでしょう。
形がどうあれ自分の心の支えとなるものがあり、それに縋ろうとする人の心。何となく宗教というものがこの世に存在する理由が理解できるような気がします。
時間の残酷さ
それと時間というものの残酷さを感じます。漂流する前まではチャックはケリーと結婚するはずだった。ケリーもチャックはきっとどこかで生きていると思っていたはず。しかし4年という時間はあまりにも長く、頑なに決めていた人の心をも変えてしまうんですね。ケリーは別の男性と結婚し子供にも恵まれ仲睦ましく暮らしていた。
チャックの存在はもう単なる過去の出来事のひとつに過ぎないのかもしれません。しかしチャックが生きていたことを知り、全て過去へと追いやっていたはずの時間が巻き戻され、ケリーは卒倒してしまいます。そして4年ぶりにチャックはケリーと再会しますが、長い歳月があの時とは全く違う現実を作ってしまいました。チャックはケリーに貰った懐中時計を返そうとしますが、ケリーは「あなたにあげたのだから持ってて」とチャックに言います。
今でもチャックを愛していたケリーは二人の人生が全く変わってしまた今、その言葉しか見つからなかったのでしょう。しかしチャックは「家族の宝は家族が持っているべきだよ」と断わりケリーの元を離れていきます。
土砂降りの雨の中、ケリーはチャックの後を追い、二人は互いに抱き合い愛が変わっていない事を確認するのですが、このまま二人で一緒に逃げる事もできたでしょう。しかしチャックはケリーに家庭を壊して欲しくないという想いからケリーを諦め別れを告げるんです。本当の愛ってこういうものなのかもしれません。時間の残酷さをつくづく感じます。