監督無名時代でも“流石!”と思わせるスピルバーグの手腕
1971年製作 アメリカ 90分
監督
スティーヴン・スピルバーグ
キャスト
デニス・ウィーバー ジャクリーン・スコット エディ・ファイアストーン ルー・フリッゼル ルシル・ベンソン キャリー・ロフティン
撮影ロケーション・情景
カリフォルニア州の山脈・砂漠 サザン・パシフィック鉄道
激突!のあらすじ
セールスマン、デイヴィッド・マン(デニス・ウィーバー)はクライアントとの契約のため、愛車プリムス・ヴァリアントに乗り早朝商談先へと出発した。ハイウエイを抜け山岳地帯の荒野に差し掛かると、前方に大型のタンクローリーがモクモクと煙を吐きながらのろのろ走っていた。撒き散らされる排気ガスにも堪えがたかったが、デイヴィッドは商談に遅れる事を懸念し、タンクローリーを追い越した。
するとさっきまでやおらに走っていたタンクローリーは一気に速度を上げ幅寄せするようにデイヴィッドの前に割り込んだ。呆れ顔をするデイヴィッドは、仕方なくまた後に回ったが、タンクローリーは減速し進路の妨害を始めた。よくある嫌がらせと意に介さなかったデイヴィッドは、再びタンクローリーを追い抜くと、タンクローリーはものすごい警笛を鳴らし威嚇した。デイヴィッドは相手にせず、そのまま暫くラジオを聞きながら車を走らせた。
デイヴィッドはほどなくして、給油のためガソリンスタンドに立ち寄った。するとそこにさっきのタンクローリーが入ってきて、デイヴィッドの隣の給油レーンに停車した。デイヴィッドは運転手がどんな人物か、車窓越しに確かめたが、既に運転席には誰もいなかった。
運転手が気になり、戦々恐々と周囲を見渡すデイヴィッド。するとタンクローリーのタイヤを靴底で蹴りながら空気圧を確かめる運転手らしき者がいた。しかし顔や姿は大きな車両が死角となって知る事は出来なかった。ただ、キャメル色のウエスタンブーツを履いている事だけはわかった。
ガソリンスタンドの店主が給油口にノズルを差し込み給油を始まると「エンジンルームも見ておきましょう」といい、ボンネットを開けた。デイヴィッドはラジエーターホースの傷みを指摘されたが、「知ってるよ。今度でいい」と気に留めなかった。給油をしている間デイヴィッドは妻(ジャクリーン・スコット)に電話をしょうとして店主に両替を頼んだ。するとタンクローリーの運転手が「早くしろ」と言わんばかりに、けたたましくホーンを鳴らした。運転手の気の荒さをデイヴィッドは感じた。
給油を済ませたデイヴィッドはスタンドを後にした。しばらく走りデイヴィッドがルームミラーを覗くと、あのタンクローリーが凄まじい勢いで後を追ってきた。タンクローリーにぴたりと着かれたデイヴィッドは煩わしさを感じ、手招きしタンクローリーに道を譲った。するとタンクローリーはデイヴィッドの車を追い越すと、またも幅寄せをし前に割り込んだ。そのまま走り去ってくれたらいいものを、タンクローリーは再び減速し進路の妨害を繰り返した。「譲ってやったのだから早く行けよ」と呆れ顔をするデイヴィッドだったがタンクローリーは進路の妨害を続けた。
道路が追い越し車線に切り替わった時である。タンクローリーを追い越そうとデイヴィッドが左車線に移ると、タンクローリーも左によってそれを阻み、右に出ようとすれば右に蛇行し追い越しをさせない。このままでは商談に間に合わないとデイヴィッドがやきもきしていると、タンクローリーは先に行けとばかりに窓から手招きをしデイヴィッドを誘った。
タンクローリーの運転手が道を譲ってくれたと思ったデイヴィッドが追い越そうとすると対抗車が現れ、間一髪のところで対向車をかわし衝突を逃れた。タンクローリーの運転手は前方が見えないカーブに差し掛かった時、敢えて追い越しをさせ、対向車両と正面衝突させる魂胆だった。さすがのデイヴィッドもこれには殺意を感じた。
どうすればこのタンクローリーから離れられるのかデイヴィッドは考えた。すると、少し先に脇道が見えてきた。あの脇道が追い越す唯一のチャンスだとデイヴィッドは睨んだ。脇道に差し掛かるとデイヴィッドは思いっきりアクセルを踏み込んで脇道に逸れ、見事タンクローリーを追い抜く事に成功した。デイヴィッドはハンドルを叩いて喜び、「してやったり」とばかりのドヤ顔をみせ、タンクローリーに手を振った。デイヴィッドはしばらく安堵の表情で車を走らせた。
しかし、それもつかの間、タンクローリーは猛スピードでデイヴィッドを追ってきた。ハイパワーのディーゼルエンジンのタンクローリーは急速にその距離を縮め、ホーンを鳴らしデイヴィッドを煽る。デイヴィッドはとっさに急ブレーキを踏み空き地に逃げ込んだ。そのはずみでデイヴィッドは車をスピンさせ駐車場フェンスに車を突き当てた。その衝撃でデイヴィッドは首に鞭打ちを負ってしまう。近所の農夫たちが心配そうにデイヴィッドに詰め寄ると、デイヴィッドは「タンクローリーに殺されかけた」と話すが、農夫たちは脳震盪で幻想を見たんだろうと、取るに足りない態度を見せた。
デイヴィッドは車から降り、おぼつかない足取りで向い側にあるレストランに入った。席に着き冷静さを取り戻そうとするデイヴィッド。なぜこんなことになってしまったのか事態を顧みながらトイレの洗面台で顔を洗い頭を冷やす。ケガをしたものの、タンクローリーと訣別できたと思ったデイヴィッドは「もう済んだ事。忘れよう」とトイレから戻り、席に着こうとした。その時だった。何気に窓から駐車場を見ると、あのタンクローリーが止まっていた。
愕然としたデイヴィッドはレストラン内を見渡し戦々恐々とする。唯一の手掛かりとなるキャメル色のウエスタンブーツも、そこにいるすべての者が一様に同じようなブーツを履いていてデイヴィッドを困惑させた。デイヴィッドは取り敢えず席に着き、食事をしながら対策を練ろうとした。年配のウエイトレスに出された水を一気に飲み干すと、デイヴィッドはライ麦パンのチーズサンドを注文し、ついでにもう一杯の水とアスピリンを頼んだ。
デイヴィッドは待つ間、色々と考えを巡らせるが、デイヴィッドは努めて都合のいいように解釈した。「別に待ち伏せをしていたわけでなく、昼時間なのでたまたまここに立ち寄っただけ。このあたりは他に店もないし。そうだ、そうに決まっている」。デイヴィッドはそう信じたかった。
するとウエスタンブーツを履いた客の一人が勘定を済ませ店を出た。デイヴィッドはこの男がタンクローリーの運転手ではと窓越しに目を遣った。男がタンクローリーに向い歩いていく。男はタンクローリーのフロントバンパー辺りを撫でまわしながら運転席側に消えた。「あの男なのか?」と思った瞬間、男はタンクローリーの奥に停めていたピックアップトラックに乗り駐車場から出て行った。彼ではなかった。
デイヴィッドは「一体誰なんだ」と店内を見渡す。すると店の奥で一人ビールを飲みながらサンドイッチを食べている男が目に入った。この男もやはりキャメル色のブーツを履いていた。もはやうつ状態になっていたデイヴィッドは男に近づき、闇雲に「もうやめてくれないか」といった。男は「何を?」と聞き返した。この男が犯人と一方的に思い込んでいるデイヴィッドは男に唐突に詰め寄った。「何の話だ」と意に介さない男の手をデイヴィッドが叩いた瞬間、男のサンドイッチが床に落ちた。難癖をつけられた上に食事の邪魔をされた男は激怒し、デイヴィッドに殴り掛かった。
そのまま男は怒って店を出た。殴られ、失墜するデイヴィッドに店主は「出て行ってくれ」と告げると、デイヴィッドは立ち上がり外を見る。怒って店を出て行った男がトラックに乗り走り出す。またしてもタンクローリーではなく違うトラックだった。デイヴィッドは愕然とした。すると突然外でトラックのエンジン音が聞こえた。駐車場に停まっていたあのタンクローリーである。デイヴィッドは店を飛び出し、走り去ろうとするタンクローリーを駆け足で追ったがタンクローリーそのまま走り去った。フラフラの状態で車に戻ったデイヴィッドも再び出発した。
しばらく車を走らせ山道に差し掛かると、一台のスクールバスがオーバーヒートを起こし救援を求めていた。デイヴィッドは嫌々ながらもヴァリアントの車体をバスの後ろに充て押してやろうと試みるが、ヴァリアントとスクールバスの車高が合わないためヴァリアントの車体がバスのバンパーの下に挟まりヴァリアントは動けなくなってしまった。デイヴィッドが何とかバスから離そうと試みていると前方にあのタンクローリーが現れた。
どうにかこうにかヴァリアントをバスから切り離すことが出来たデイヴィッドは慌てて車を走らせ足早に逃げた。しばらく車を走らせると踏切があり貨物列車が横断中だった。踏切で停車し列車の通過を待っていると「ゴツン」という音とともに車が揺れた。
ミラーを覗くとあのタンクローリーが踏切内にデイヴィッドの車を押し出そうとしていた。明らかに男はデイヴィッドを殺めようとしていた。デイヴィッドはとっさにギアをバックに入れ替え、タンクローリーに対抗したが、タンクローリーの馬力は相当なもので、危うく列車に巻き込まれそうになったところで踏切の遮断機が開いた。勢いあまりそのはずみでデイヴィッドはすぐそばにある路肩に車を乗り上げた。タンクローリーは不気味な警笛を鳴らし過ぎ去って行った。
列車に巻き込まれず命拾いをしたデイヴィッドは胸をなで下ろし再び車を走らせた。デイヴィッドは心身ともに相当疲れ切っていた。そんなデイヴィッドが峠を上り、下り坂に入ろうとした時、前方にタンクローリーが走っていた。上り坂のため前が見えず存在に気付かなかったのだ。
命の危険を感じたデイヴィッドは通り沿いにあったドライブインに逃げ込み、公衆電話から警察に助けを求めた。デイヴィッドが公衆電話で警察と話をしていると、タンクローリーは公衆電話めがけ突進した。デイヴィッドはとっさに身をかわすが、タンクローリーは店や飼っている動物小屋もろとも踏み倒し、デイヴィッドの後を執拗に追った。
血眼で逃げるデイヴィッドはとっさにハンドルを切り、鉄道脇の枝道に逃げ込み身を隠した。それに気づかぬタンクローリーはそのまま走り去った。そしてデイヴィッドはタンクローリーとの距離を少しでも離そうと、しばらくそのまま眠り込んだ。
眠っていたデイヴィッドだったが、突然大きなホーンが鳴った。あのタンクローリーが再び襲ってきたのかと思いデイヴィッドは飛び起きた。しかしそのホーンはタンクローリーではなく、傍を通る貨物列車の警笛だった。タンクローリーのホーンの音が頭から離れず、全てあのホーンに聞こえてしまっていた。それが貨物列車だと知ると極度の安堵でデイヴィッドは大笑いした。
気を取り直しデイヴィッドは再びハンドルを握り走り出す。しかし突然デイヴィッドはブレーキを踏み車を止めた。先方にあのタンクローリーが待っていたからである。
あまりの執拗さに、もう逃げきれないと悟ったデイヴィッドは、とうとうタンクローリーとの対決を決意する。シートベルトを締め直し、臨戦態勢に入ったデイヴィッドは、待ち構えるタンクローリーの横を静かに通過し、「ついてこい!」とばかりに挑発してみせた。
物凄い勢いでデイヴィッドの後を追うタンクローリー。アクセルをフルに踏み込み猛スピードで逃げるデイヴィッド。タンクローリーとの距離はだいぶ離れていたが、ハイパワーのタンクローリーにその距離を徐々に詰められてしまう。
十数メートルのあたりまで距離を詰められた時、道路は上り坂に差し掛かった。上り坂ではあの巨大なタンクローリーではさすがに追いつかず、デイヴィッドの車が見えなくなるほど距離を離された。ところが安心したのもつかの間、デイヴィッドが後ろを見ると車は大量の煙を放っていた。車のラジエターホースから水が漏れ、オーバーヒート直前の状態だった。ガソリンスタンドでラジエターホースの交換をしなかったことが仇となった。
デイヴィッドの車は悶々と煙をまき散らし、見る見るうちに速度が落ち、エンスト寸前である。もはやこれまでかと思われた時に道路が下り坂に差し掛かかった。デイヴィッドはギアをニュートラルに入れ替え車は坂道を下った。徐々にスピードが上がるが、勢いあまってデイヴィッドはコントロールを失い、壁にぶつかり車が止まった。今にもエンジンが止まりそうな状態だったがデイヴィッドは逃げ続けそのまま峠にある崖へとタンクローリーを誘った。
崖下を背に車を止めたデイヴィッドはタンクローリーが向かってくるのを待った。案の定、タンクローリーはものすごいスピードでデイヴィッドの車に向ってきた。デイヴィッドは助手席にあったアタッシュケースをアクセルに挟み込んだ。そしてタンクローリーめがけて正面衝突を試みる。
アクセルペダルにアタッシュケースをかませ、衝突する直前にデイヴィッドは車から飛び降りた。デイヴィッドの車に凄まじい勢いで激突したタンクローリーは勢いに任せデイヴィッドの車を押しやるが、煙と砂埃に視界を遮られていたため、その先が崖である事に気付くのが遅れた。慌ててタンクローリーはブレーキを踏むが間に合わず、ヴァリアント共々、崖下に転落し大破した。運転手は息絶え、デイヴィッドは死の恐怖からようやく解放された。
激突!のレビュー・感想
この映画は一種のロードムービーに当たるのでしょうが、映し出される景色はアメリカの山間部の荒野がほとんどです。でも巧みなカメラワークで進めていくので全く飽きません。ちなみに昔、僕が1時間半の時間をかけて職場の会議のため車で移動する際、この映画を車中で流していたんですが、乗っていた3人全員がひとりも居眠りすることなく最後まで観入っていました。中途半端な愚作だったら1時間以上も乗っていれば寝てしまうはずですよね。(笑)
そしてこの作品の監督が、監督としてデビューして間もない無名時代のスピルバーグだというから、やっぱり才能ある人って違うんだなあって感心してしまいます。ちなみにこの時のスピルバーグ監督の若かりし姿が、デイヴィッドが警察に通報する公衆電話のガラスになぜか映り込んでいますから「あらまぁ」という感じで面白いです。
この「激突!」は英語でも吹替えでも、どちらでも楽しめると思いますが、主人公デイヴィッドの吹替えは過去複数の人がやっていて、かなり前にテレビ朝日系列で放映された時の穂積隆信さんの声がデイヴィッドには一番合っているようで私個人としては好きですね。
それと観る時に注意して欲しいのがタンクローリーのホーンの音がかなり大きいこと。セリフに合わせ音量設定しているとタンクローリーがホーンを鳴らすシーンでは吃驚しちゃいます。なので英語でも日本語吹き替えでもどちらにせよ、字幕を表示させてセリフの音量は小さめにして観てもらった方が観やすいかもしれません。もちろん防音システムを施したシアタールームのような環境下であればその必要はありませんが。
またこの映画の最初から終わりまで、常に画面に登場するデイヴィッドの愛車、プリムス・ヴァリアントですが、この時代のアメ車の足回りの弱さとステアリングのか細さが顕著に表れていますね。
車とは不思議なもので見慣れてくるとフロントマスクがおのずと人の顔に見えてくる。このピータービルト社製の、まるで軍用機のような色をしたタンクローリーのフロントマスク。こんなのに追い回されたら恐怖以外の何ものでもないでしょう。
坂道を上り、下り道に入ったところでタンクローリーが待ち伏せしているシーンがあり、恐怖でデイヴィッドが急ブレーキを踏むシーンがありますが、その時のカメラワークと効果音がその不気味さと恐怖を解りやすく表現していて、無名時代とはいえ、さすがにスピルバーグって上手いなあって思います。
セールスの商談のため朝早く家を出た平凡なセールスマンが、ふとしたことから命を脅かされ、最後に敵と一騎打ちをしてこの映画は終わりますが、デイヴィッドがタンクローリーを撒いた後、線路脇で眠ってしまい、列車の警笛をタンクローリーのホーンと勘違いして飛び起き、デイヴィッドが安堵感から大笑いをするシーンがあるのですが、仮にこのシーンあたりでこの映画を終えたとしても、十分に面白い映画として成り立つような繊細なタッチで描かれたいい映画です。まあ、スピルバーグだから当然と言えば当然なんでしょうけれどね。