フォードvsフェラーリ

“打倒フェラーリ”を誓いル・マン24を制する二人の男の物語

2019年製作  アメリカ  153分

監督

ジェームズ・マンゴールド

キャスト

マット・デイモン  クリスチャン・ベール  ジョン・バーンサル  カトリーナ・バルフ  トレイシー・レッツ  ジョシュ・ルーカス  レイ・マッキノン

撮影ロケーション・情景

自動車レース  レーサー  自動車整備工場  フォード フェラーリ  アメリカ企業

レース参加に否定的だったヘンリー・フォード二世にル・マン24時間レースの参戦を説得したリー・アイアコッカという人の仕事っぷり

YouTubeで解説しています

映画の予告編はこちらから 

フォードvsフェラーリのあらすじ

過去の功績を引きずるシェルビーと“気難しくて変わり者”のマイルズ

かつてレーシングドライバーとして活躍していたキャロル・シェルビー(マット・デイモン)は1959年のル・マン24時間レースで優勝し栄光を輝かせていたが持病である心臓病が悪化しレースドライバーの引退を余儀なくされ「シェルビー・アメリカン」という工房を営み理想のスポーツカー造りに精をだす日々を送っていた。

「シェルビー・アメリカン」はたくさんのセレブを顧客にもち、経営に携わるシェルビーもカーデザイナーとしても順風満帆な人生を送っていた。しかしそんなシェルビーは過去のレーサーとしての輝かしい日々が忘れられずにいた。

ある日シェルビーがとあるレースの観戦に出掛けるとそこにケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)がレース参戦にきていた。

マイルズはかつてイギリスでレーサーとして活躍していたが第二次世界大戦の終結と共に家族を従えアメリカに移住し自動車整備工場を営みながら時折好きなレースに参戦していた。レーサーであるマイルズの整備技術は一般人からするとコアな仕上がりとなることが多くマイルズ自身が変わり者という性格も相まって工場経営は決して順調とは言えなかった。しかし車に対する愛情とこだわりは人一倍あり、息子や妻からは敬服され幸せな家庭を築いている男であった。

レース観戦をしにきたシェルビーのところにブルモス・ポルシェの責任者Dヴォスがやってきてポルシェのレースドライバーを探している事を告げる。シェルビーは61年のUSOC王者でパイクスピークでも優勝を遂げたマイルズを推薦した。しかし周りの取り巻きらはマイルズは気難しいから関わらない方がいいとDヴォスに忠告する。シェルビーは「そんなことはない」とマイルズをかばうが隣でレース主催者と問答している男がいた。マイルズである。マイルズは主催者側からトランクが閉まらない事を指摘されレース出場の失格を告げられ主催者側とトラぶっている所だった。シェルビーが間に入り和解させようとするが短気なマイルズは興奮し、トランクを無理やり叩いて閉めようとしレースの出場権を得ようとした。

そんなマイルズの様子を見ていたシェルビーは彼に「ブルモス・ポルシェが君を欲しがっていたが扱いづらいと言っていた」と忠告する。マイルズはそんな事関係ないと言わんばかりの態度でシェルビーの忠告を無視した。シェルビーはマイルズに「プロは皆車を持ってる。スポンサーなしでは車は手に入らない」とマイルズに丸くなるよう挑発するが、マイルズは聞く耳を持たず、それどころか怒ってシェルビーにスパナを投げつけた。

ほどなくしてレースがスタート。コブラのハンドルを握るマイルズは持ち前の度胸と巧みな運転技術で先頭を走っていたガーニーのコルベットを抜き土壇場の大逆転で優勝を果たす。レースを静観していたシェルビーは改めてマイルズの凄さを目の当たりにし、彼に敬意を抱くシェルビーは投げつけられたスパナを持ち帰りオフィスに飾った。

レース再戦に情熱を燃やすマイルズであったが・・・

しかしその一方、マイルズの留守中、工場に2人の男がやってきた。国税庁である。マイルズは税金を滞納していて整備工場を差し押さえられてしまう。妻モリーに今後の行く末を問われたマイルズはレースを諦め堅実に働くことを約束する。

レース参加に否定的なフォードにル・マン24時間レースの参戦を説得したリー・アイアコッカ

1962年アメリカの巨大自動車メーカーフォード・モーターの販売促進チームはこれからの自動車需要の拡散と若者におけるトレンドを視野に入れ、魅力的で速い自動車を製造するために自動車レースの参戦を提言した。しかし会長であるヘンリー・フォード二世及び経営陣たちはレースへの参戦には否定的だった。参戦を提言した販売促進チームの過去3年間の販売不振が尾を引いており、彼らが提唱する内容に信憑性が感じられなかったからである。しかし販売促進チームを率いるリー(ジョン・バーンサル)は伝統的レース「ル・マン24時間」で過去4回もの優勝を成し遂げたイタリアの自動車メーカーフェラーリを引合いにだし「彼らに学ぶべきだ」と言って経営陣に食い下がった。

そしてフォードの経営陣たちを説得したリーは早速フェラーリ本社へ赴く。この頃のフェラーリは自動車づくりの歴史に燦然と輝く一方、経営的には破産寸前だった。フェラーリの工場を隅々まで視察したリーは思い切った行動に出る。何とエンツォフェラーリに買収を直訴したのだ。エンツォはリーに「少し考える時間を」と結論を避けた。

フォードを酷評したエンツォ・フェラーリ

数日M&Aの内容を検討していたエンツォだったがレース部門の支配権をフェラーリ側に与えるとしながらも「フォードがレース部門を退く意向を示した時にはそれに従う」というフォード側の条件に対し、レース至上主義であるエンツォは技術者としての誇り、イタリア人としての誇りを傷付けられたと憤慨し土壇場になってリーの話をはね付けたばかりか、フォード社、そして会長ヘンリー・フォード二世の人格までも酷評した。

リーがアメリカに戻ると「フィアット社フェラーリを買収」という新聞の見出しが世間を賑わせた。実はエンツォははなからフォードとの合併は本気ではなく、裏でフィアットに高値で買わせるためにフォードをダシに使ったのである。

買収に失敗したリーたちをヘンリー二世が呼び出し、エンツォがどんなことを言っていたのか詳細に報告させた。リーはエンツォが酷評したとおりの言葉でそのままヘンリー二世に伝えるとヘンリー二世は憤慨し「最高のエンジニアを集めろ」とリーたちに指示した。ヘンリー二世が“打倒フェラーリ”を決意した瞬間である。同時にヘンリー二世は最高のドライバーも集めるようリーに加えた。レースで勝利するためには優秀なドライバーが必要になる事を熟知していたリーにとっては目論み通りであった。

“打倒フェラーリ”のために欠かせない存在となるマイルズ

更にリーはレースで勝利するためには優秀な監督が必要という事も心得ていたため以前から仕事上関わりを持っていたシェルビーに「唯一、ル・マンで優勝を果たした米国人」として白羽の矢をたてた。シェルビーはこれを快諾した。早速シェルビーはマシン開発に欠かせないテストドライバーとしてマイルズに声をかけた。

マイルズは「フェラーリを負かす?冗談はやめてくれ」と冷ややかだったがそれでもシェルビーはマイルズに拘り「次の日曜日、マスタングの発表会でレース計画の発表があるから来い」とマイルズを誘った。

発表会の当日。マイルズは息子ピーターを連れ会場を訪れた。フォードの目玉として展示されたマスタングを見るなりマイルズは「秘書が乗る車だ」と揶揄した。息子ピーターがマスタングを触り中を覗いていると副社長のレオ・ビーブ(ジョシュ・ルーカス)が「触らないでほしい」とピーターに注意した。そしてマイルズが父親だと分かると「塗装が汚れるので触らせないでほしい」と口うるさく念を押された。注意した相手がフォードの副社長だと分るとマイルズはお返しとばかりに「ムスタングの外見は素晴らしいが中身がなってない」とレオに忠告する。さらにマイルズは「直列6気筒エンジンと3速ギアは廃止すべし」「ホイールベースの短縮で軽量化するべし」などと散々酷評したあげく「そうなっても自分はシボレーを選ぶよ」とレオをこき下ろした。

発表会ではレース計画に際しシェルビーのスピーチが予定されていた。シェルビーは世界一速い車づくりへの情熱、そしてル・マン24時間レースでの優勝の可能性について熱弁するも、自動車レースに見切りをつけていたマイルズはスピーチの途中帰ってしまった。

それでもマイルズを諦めきれないシェルビーはマイルズの自宅にまで押しかけ「30分だけ付き合ってくれ」とマイルズに懇請し、イギリスから空輸されてきたばかりのフォード・GT40の試乗につき合わせた。GT40のハンドルを握ったマイルズは試乗後シェルビーから感想を問われると、ギア比の高さ、ステアリングの甘さなどいくつもの解決すべき問題点をシェルビーに進言するがGT40の圧倒的な速さに魅せられ満更でもない様子だった。

翌日マイルズは昨晩シェルビーと一緒だったことを妻モリーに問われた。またレースにのめり込むのではと危惧するモリーに対しマイルズが真相をはぐらかそうとすると突然モリーは「嘘は許せない。あなたの本音が知りたい」と怒りだした。マイルズはその言葉が心に刺さりシェルビーを通じてきていたフォードからのオファーについて話しはじめた。マイルズはモリーにオファーの内容を説明し、それでも「まだ迷っている」と告げると、モリーは「馬鹿じゃないの?」と言ってマイルズの背中を押した。

モリーの後押しもあり、気持ちが吹っ切れたマイルズはシェルビーと手を組みレース界に舞い戻る決心をする。

マイルズを快く思わないフォードの経営陣

しかしそれもつかの間、フォードの経営陣たちはル・マンのレーシングドライバーとしてマイルズを快く思っていなかった。特に副社長のレオはことのほかマイルズを嫌っており「マイルズではフォードの信頼が崩れる」といってマイルズをレーサーとして受け入れようとしなかった。そんなレオに対してシェルビーは「マシンを最も理解する男」といってレオを諭すがレオは聞く耳を持たなかった。

ル・マンでのドライバーとしての参戦ができない事を告げられたマイルズはアメリカの工場に留まり、妻モリーと共にラジオでレース中継を聴くことになる。

結局GT40はル・マンで善戦するもマイルズが指摘していたギアボックスの弱さが的中しフォードは出場全車がリタイヤするという惨敗を喫してしまった。フォード本社を訪ねレース結果をヘンリーに報告しに来たシェルビーはレースの惨敗振りに怒り心頭のヘンリー二世から開口一番「赤っ恥をかかされてもお前らがクビを切られない理由があったら言ってみろ」と叱責される。それに対しシェルビーは現場から会長への意思伝達が何人もの役職者を介す事で複雑になり、それによってよからぬ横槍が入りよい結果をも阻害するというフォードの委員会組織を批判しヘンリー二世に直訴した。

ヘンリー二世はシェルビーの意見を聞き入れ、以降、レースのプロジェクトチームはヘンリー二世の直轄下に置き、指揮系統を明確にすることで彼に再度レースを任せた。ヘンリー二世が後ろ盾となったシェルビーは意気揚々となって再びマイルズを訪ねた。

フォードvsフェラーリのレビュー・感想

36歳の若さでアメリカ巨大企業フォードの副社長に上り詰めたリー・アイアコッカの訴求力が凄い

主人公であるキャロル・シェルビーとケン・マイルズの関係が素晴らしく、もちろん感銘を受けたけれど、一方で先見の明をもち自動車の販売戦略に異論を呈したリー・アイアコッカも凄くいい仕事をしていて陰ながら光っていたなぁというのが僕の率直な感想です。

どんなに上手い言葉で経営陣を説得しようとしても過去の実績の不甲斐さを指摘されればとたんにショボ~ンとなってしまうのが常だけれど、フォードの経営陣にレース参戦を提言し納得させたリー・アイアコッカの言葉には重みがあり凄い説得力がありましたね。さすが36歳という若さでアメリカの巨大企業フォードの副社長に上り詰めただけの事はあります。

脚本もビジネス戦士を漂わせた素晴らしい出来栄えで単にレースの勝ち負けで終わらない凄く重みのある映画に仕上がっているという感じです。ただ、もう少し企業間(フォードとフェラーリ)の戦略の描写というか細かなエピソードみたいなものをもう少し加味してもらうと嬉しかったですね。

自動車ってただ速く走ればいいってものではない事くらいは薄々わかってはいるけれど、いい車を決定づける要素って思った以上に沢山あるんだなという事を凄く痛感させられました。エンツォフェラーリの車作りに対する情熱とマインドがまた凄い。さすがフェラーリ。

自動車って所詮は工業製品。車の質を徹底的に追及すればフェラーリみたいな企業は量産は難しいだろうし、大量生産を誇るフォードがフェラーリの真髄にどのあたりまで迫ろうとしていたのか、ル・マンを制した唯一のアメリカ車という冠がその後どのような影響をもたらしたのかという素朴な疑問が少々残りましたが、とにかくシェルビーとマイルズの友情が素晴らしく、そしてたくましく育つ息子ピーターの姿に感動です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です